帰りたい家になれるかどうか?
はるひ苑仁保
「わたくし、今から帰らせて頂きます」
午前中、入居者のお一人が
帽子をかぶり、コートを羽織って
外履きの靴をもって事務所に来られた。
いつもと表情が違う。ただ事ではない。
「じゃあ、電話をかけてご家族に迎えに来てもらいましょう」
「結構です。自分で歩いて帰れますから」
と玄関を開けてスタスタと出て行かれた。
急いで後を追いかける。
そして距離を取りながら後ろをついていく。
頃合を見ては声をかける。
「遠いですね。車で迎えに来てもらいましょうか?」
「結構です」
「ご自宅まで20キロぐらいありますので―」
「大丈夫です。歩いていれば着きます」
色々な話しかけ方をしながら繰り返すが、今日は
かなり頭にきておられるのか、一向に足を止めていただけない。
それはそうだ。家に帰りたいのは当たり前。誰も自分で進んでグループホームに入って
いるわけではない。「やっぱり家が一番」でやって来られた方はなおさらだ。
それにお正月。家をきちんとしないといけない。そわそわして落ち着かないのは当たり前。
結局2時間半歩き続け、何キロぐらい歩いただろう。
とめどない話をしていたら、ふと、
「わたくし、今、なんでこんなことしてるんでしょうか?まあ、大変ご迷惑を
おかけしてすいません。この間も同じようなことがあったんです。本当に
申し訳ありません」
ああ、こないだおせち料理の材料の買い出しに行ってもらいましたね、
写真で見ましたよ、すごい買ってましたね―違う話題に逸らしてみる。
そうなんですよ、ホントすごいあったんです・・まあ、ほんとにご迷惑をおかけして・・・
ホームに電話して迎えの車を呼ぶ。
自分のしたことに後で気がついて自分の行いを恥じる。
とても辛いことです。
そのときは頭に血が上ってしまってーとか、そんなことは認知症とか関係なく、
自分たちもよくあることです。怒りに我を忘れて、なんて誰にでもあること。
ほんとにすいません、車の中でも自分を恥じ、謝り続けられた。
認知症の人は病識がないというのは間違いです。
実際はかなり辛い状況を過ごしておられます。
自分ではどうしようもない、自分では止められないことで苦しんでおられる。
苑に帰るとスタッフが笑顔で出迎える。
「おかえりなさ~い。ご飯の準備できましたよ」
何事もなかったように振舞い、受け入れる。
「ただいま戻りました~」照れ笑いでスタッフ、他の入居者に応える。
果たして帰りたい家かどうか?ここにいてもいいんだ、ここにいたい、
ここで私は必要とされている、そう思える家であればきっと笑顔で過ごせるはず。
新しくできたホーム、新しく入った入居者の方々。まだまだこれから挑戦が続きます。
私たちの思いが届きますように。
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